本記事は、筆者の実体験をもとに構成したフィクションです。登場する人物・会社名・団体名などは架空のものであり、実在の人物・企業・団体とは関係ありません。実際にあった出来事を分かりやすくお伝えするため、一部の内容や時系列、会話などを脚色しています。
【登場人物】

古川(ふるかわ):元SE。システムを「爆弾」と捉えるリアリスト。「己の役割に嘘をつかず、どんな面倒な作業も真摯に紐解く」という古風な流儀を胸に、日々技術と向き合う男。

ユイ:事務所の事務・広報担当。チョコミントを愛する現代っ子。効率重視のあまり、時々大きな落とし穴にハマる。
【ビット&ピース:その電話は突然に】
古川さんが運営するシステム会社『ビット&ピース』。ここは、最新のクラウド技術から、かつて一世を風靡したVB6で書かれた化石のようなレガシーシステムの延命まで何でも引き受ける、業界の「駆け込み寺」だ。

……今日も、仕事こないですねぇ。
私はデスクで、分厚い『ITパスポート合格教本』を広げた。オフィスには、古川さんが淹れたパックのお茶の香りと、彼が打ち続けるキーボードの硬質な音がリズムを刻んでいる。彼は一点だけを見つめ、古いシステムのバグを黙々と修正していた。
その時だった。静寂を突き破るように電話が鳴り響いた。
『お世話になります! 弊社はDX推進を支援するクラウドサービスを提供しておりまして……今なら初期費用0円で、貴社の業務効率が劇的に……!』
耳元で、DX、SaaS、可用性といった専門用語の弾丸が飛び交う。会話の内容を聞いていた古川さんの指が一瞬だけ止まった。長い通話で受話器を握る手に汗が滲む。この契約さえすれば、なにかいい方向に変わるのだろうか。受話器を握りしめ、導入について打ち合わせの日程を決めようとしたその時、古川さんが静かに受話器を取り上げ、通話を変わった。
クラウドとオンプレミスは「カレー作り」で考える

ユイさん、また「分からないまま」相手のペースで話を進めようとしましたね。営業の方も業績のために必死です。中には親身になって対応してくれる方もいますが、今の時点では、彼らはうちの事務所の事情までは分かっていないんですよ。
古川さんはお茶を一口すすり、ノートを広げて図を描き始めた。
クラウド選びもカレー作りと同じです。食べるために、どこまで自分でやるかという違いなんですよ。
- オンプレミス(自炊):畑を耕し、食材を育て、包丁を研ぎ、火をおこして一から煮込みます。手間は凄まじいですが、味のすべてを自分好みに変えられます。
- IaaS(高級食材と調理器具の貸し出し):素材と最新の調理器具は貸してあげますが、調理するのはあなたです。味付けも煮込み時間も自由ですが、失敗して焦がすのもあなたの責任ですよ。
- PaaS(レトルトの具+調理済ベース):具材やベースは完成しています。あなたは好みのスパイスを足したり、盛り付けを変えたりするだけです。
- SaaS(店で食べる完成カレー):調理済みです。あなたは皿を選び、食べるだけ。ただし、店のレシピが気に入らなくても、勝手に味を変えることはできません。

試験に出る「責任分界点」とカレーの関係
| サービスモデル | カレーのイメージ | 利用者が守るべき「責任」 |
|---|---|---|
| IaaS | 高級食材と器具セット | 火の管理・調理・焦がさないこと (インフラ構成・OSパッチ管理) |
| PaaS | レトルトの具+調理済ベース | 味付け調整・盛り付け・提供 (ミドルウェア・アプリケーション管理) |
| SaaS | 店で提供される完成カレー | 食べるだけ (データアクセス・ID/権限管理) |
営業の方は甘い言葉を吐きますが、SaaSという完成カレーを注文しても、「どの店を選ぶか」「食べ過ぎて体調を崩さないか(ID管理)」という利用者の責任までは消えないのです。それを試験では「責任分界点」と呼ぶのですよ。
💡 学習のポイント(根拠資料)
本記事で解説した「責任分界点」の考え方は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開する『クラウドセキュリティ 〜設定ミスとの付き合い⽅〜(2023年7月時点)』における「第1章 はじめに」の章に基づいています。特にIaaS/PaaS/SaaSの責任範囲は試験の出題項目ですので、学習の際は必ず公式の「ITパスポート試験」シラバス(Ver.6.5)(これらはITパスポートで身につけるべき知識としてIPAが指定している)も併せて確認してください。
他人任せは一番ダメです
私は教本を見つめました。今まではただの呪文だと思っていた言葉たちが、古川さんの解説を聞いた途端、私たちの仕事を守るための「防具」に見えました。

……私、ちゃんと理解したいです。誰かに言われるままではなくて、自分の意志で、うちの会社に必要なシステムを選べるようになりたいんです。

なら、その教本の続きを読んでみてください。あなたがその盾を完成させる頃には、そんな怪しい営業電話なんて、ただの雑音に聞こえるようになるはずですよ。
私は分厚い教本を、今度こそしっかりと開き直りました。これは、私がシステムに踊らされる初心者から卒業するための、第一歩です。
【ITパスポート受験生へのエール】
用語を暗記しようとしないでください。クラウドは「誰がどこまで調理を担当するか」という契約の形に過ぎません。知識を試験合格のためだけに使わず、現場で自分と会社を守るための「生存戦略」に変えてください。

新しい技術は、組織を大きく変える力を持っています。しかし、その力を引き出せるかどうかは、技術ではなく『使う人』と『組織の準備』にかかっています。どんなに優れたクラウドサービスも、準備が整っていなければ宝の持ち腐れです。だからこそ私は、技術だけではなく、それを活かせる組織づくりこそが何より大切だと考えています。クラウドサービスは、とても優れた技術です。しかし、技術だけで組織は変わりません。変えるのは、それを理解し、活かそうとする人たちです。どれほど素晴らしいクラウドサービスでも、受け入れる準備が整っていなければ、その力を十分に発揮することはできません。だからこそ、私は『システムを導入する前に、人と組織を育てること』が何より大切だと思っています。
そして、ITパスポートの勉強をしている皆さん。試験に合格することはゴールではありません。本当の価値は、学んだ知識を現場で活かし、誰かの役に立てることにあります。一つひとつの知識は、いつか誰かを助ける大きな力になります。焦らず、諦めず、自分のペースで学び続けてください。その積み重ねが、未来のあなたを支える確かな力になるはずです。
(次回予告:ネットワーク編へ続く……!)

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